はじめに──“成長市場”として持ち上げられる系統用蓄電池

近年、日本では「系統用蓄電池」が成長分野として大きな注目を集めています。政府の補助金を背景に、 投資ファンドや事業会社から多額の資金が流入し、電力の安定化や 再生可能エネルギー(以下、再エネ)の主力電源化を支えるインフラと位置づけられてきました。

しかし冷静に制度と構造を見れば、系統用蓄電池は再エネの本質的欠陥を補うための「後付け装置」に過ぎません。 本稿では、日本市場に限定して、系統用蓄電池が抱える構造問題を整理し、 なぜ「盗人に追い銭」と言えるのか、さらに投資対象としてなぜ慎重であるべきかを論じます。

1. 系統用蓄電池が必要とされる理由──「予見されていたはずの問題」

日本で系統用蓄電池が拡大している最大の理由は、 太陽光・風力といった変動型再エネの急増です。出力の不安定さ、同時発電による余剰、 周波数調整力の低下などが顕在化し、これを吸収する装置として蓄電池が導入されています。

しかし重要なのは、こうした問題の多くは再エネ導入以前から予見可能だったという点です。 にもかかわらず日本では、再エネの「自律性」や「需給責任」を制度的に問わないまま導入を進め、 そのツケを系統側が引き受ける構造を作ってしまいました。 系統用蓄電池は、その歪みを埋めるための装置に他なりません。

2. 欧州(北欧・ドイツ)との決定的な制度差

ドイツや北欧諸国では、蓄電池の位置づけが日本とは根本的に異なります。 再エネ事業者自身が需給調整や出力予測の責任を負い、その手段として蓄電池を保有・運用します。 つまり蓄電池は、「系統を助ける設備」ではなく、「市場に参加するための事業装置」です。

  • ドイツでは再エネも需給調整市場に参加し、予測誤差によるコストは事業者が負担
  • 北欧では水力という調整力を背景に、発電事業者が周波数安定への責任を自覚的に負う
  • 結果として系統は疎結合化され、大規模な系統用蓄電池はあくまで補完的な位置づけ

一方日本では、再エネは出力責任をほとんど負わず、調整は系統の義務とされています。 この思想の違いが、系統用蓄電池の肥大化を招いていると言えます。

3. 系統用蓄電池は「盗人に追い銭」なのか

系統用蓄電池は、再エネの構造的欠陥という「盗人」を取り逃がしたまま、 後から補助金という「追い銭」を投じている状態と表現できます。 問題の原因である制度設計や責任の所在には手を付けず、症状だけを抑え込んでいるからです。

この結果、再エネ事業者は非自律のまま拡大を続け、系統側のコストと複雑性だけが増大します。 蓄電池は問題を解決するどころか、問題を温存し、見えにくくしている側面すらあります。

4. 系統用蓄電池バブルが崩れる条件

現在の系統用蓄電池ビジネスは、概ね次の三つの前提に依存しています。

  1. 補助金の継続
    多くの案件は市場収益だけでは成立せず、補助金がなければ投資回収は困難です。 財政制約や政策転換により補助金が縮小すれば、事業モデルは一気に崩れます。
  2. 制度が変わらないこと
    もし再エネに需給責任やインバランスコストが本格的に課されれば、 系統用蓄電池の役割は急速に縮小します。
  3. 系統問題が顕在化しないこと
    東西周波数問題や基幹送電線制約など、蓄電池では解決できない問題が明確になれば、 「蓄電池万能論」は早晩破綻します。

5. 投資視点で見た「投資してはいけない理由」

投資の観点から見ると、系統用蓄電池には次のような致命的な問題があります。

  • 政策依存リスクが極端に高い
    収益の前提が補助金と制度設計にあり、技術や市場競争力による優位性が乏しい投資対象です。
  • 中長期的な需要が不透明
    制度が自律分散型へ転換すれば、系統用蓄電池は過剰設備となり得ます。
  • 技術的な陳腐化リスク
    蓄電池技術は進歩が速く、現在の設備が10〜15年後に競争力を保てる保証はありません。
  • 本質的価値を生まない構造
    系統用蓄電池は付加価値を創出するのではなく、「損失を緩和する装置」に過ぎません。 投資対象として最も評価が難しい領域です。

霞が関向け:系統用蓄電池政策の再検証メモ

予算編成・政策立案の視点から、系統用蓄電池への集中的な財政支出を再検証するためのメモを別途まとめています。 制度・市場・事業実態の観点から、「どこまでが電力インフラとして正当か」を整理したものです。

詳細は、以下のメモをご覧ください。

系統用蓄電池政策の再検証について(予算編成期における留意点)を読む

おわりに──「盗人に追い銭」で終わらせないために

日本における系統用蓄電池は、再エネの欠陥を覆い隠すための延命装置であり、 本質的な解決策ではありません。
自律分散できない再エネを前提にしたままでは、どれだけ蓄電池を積み上げても、 持続的な電力システムは構築できません。

  • 系統用蓄電池の多くは「再エネの非自律性」を前提とした後付け装置である
  • 補助金と制度に強く依存したビジネスは、政策転換とともに急速に座礁する
  • 真に注目すべきは、発電・蓄電・需要が一体化した自律分散型モデルである

いま問われているのは、「系統用蓄電池をやるべきか/やめるべきか」ではありません。 どのような制度と設計思想で、自律したエネルギーシステムを構成するのかです。