ポータブル電源火災(リチウムイオンバッテリー)の異常発熱、火災はなぜ繰り返されるのか?
近年頻発する停電や災害時への備えとして、非常時に手軽に電源を確保できるポータブル電源が注目されています。
広域災害時には従業員の安否確認や取引先、客先との連絡のため、スマホ、モバイル端末やインターネットなど通信設備の維持は欠かせません。
復旧までの間、限られた電力を使って限定した業務を行うことが事業の早期再開に不可欠となってきています。
このような背景からポータブル電源の市場規模は、今後5年間で約10倍の市場規模に成長するとも言われています。
しかしながら、防災対策や事故、停電時のBCP対策として有効なポータブル電源に起因する火災がこの数年、各地で頻発しています。
現在市場に流通しているポータブル電源の多くは「リチウムイオンバッテリー」を採用しており、それらの多くが、バッテリーのSDS(安全データシート)や構造や成分の記載のない製品です。
ポータブル電源による火災原因のほとんどは、搭載している「リチウムイオンバッテリー」による異常発熱、発火によるものですが、これでは万が一の火災事故時の火災原因調査の障害となり原因調査の長期間化は避けられません。
「リチウムイオンバッテリー」を搭載したポータブル電源による災害時への備えが、災害を誘発するという本末転倒な結果となっています。
火災原因調査中は営業・製造活動が制約され損害以上に営業損失が拡大
消防では火災が発生した場合、消防法によって「火災調査」を行うことが定められています。
この「火災調査」は調査を行うにあたっては、火災現場への立入り捜査権、関係者に対する質問権など、火災調査をする上で必要な権限が消防職員に対して与えられます。
「火災調査」は大きく2つに分けられます。
1つは、火災の原因を明らかにする「火災原因調査」です。この調査では、出火原因だけでなく、火災が拡大するに至った原因や避難のようす、消防設備などを調べます。そうすることで危険な要素が明らかになり、今後の火災予防に役立てることができるのです。また、この調査は民事上、刑事上の責任を明確にするという役割も果たします。
そしてもう1つは「火災損害調査」です。こちらは、火災による死傷者や罹災世帯など人的被害の状況、火災や消火の際に受けた物的損害の状況、損害額の評価などを行うものです。
火災現場では、広い領域にわたる科学的かつ専門的な知識を持った「火災原因調査員」が地道に火災の原因を究明していきます。
当然に、その間の営業や製造などの事業活動は制約を受けることとなります。
約1年程度現場調査に要する場合、その現場保全の都合上、使用制限等が行われることとなり、火災事故調査報告書の公表など企業にとっての負担は少なくありません。
参考 東京消防庁 消防雑学事典
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/libr/qa/qa_52.htm
ボヤでは済まない、ポータブル電源火災(リチウムイオンバッテリー)
2021年01月05日 神奈川県で発生した国内製造のポータブル電源(リチウムイオン)による火災原因について公表されています。
内容は以下の通りですが特筆すべきは、この製品には事故当時、電気製品が接続されていないと言うことです。
○事故発生時、当該製品には電気製品は接続されておらず、近傍には非純正バッテリーが装着された他社製の充電式掃除機が置かれていた。
○当該製品は著しく焼損し、樹脂製外郭が溶融、焼失していたほか、樹脂製外郭が焼損し、溶融した充電式掃除機が付着していた。
○当該製品の内蔵バッテリーの焼損は著しく、確認できた39個のリチウムイオン電池セルのうち9個は破裂して封口体が外れ、電極体が飛び出していた。
○封口体が残っていた電池セル30個は焼損していたが、電極体は外装缶内に残存していた。
○内蔵のインバーター部は、一部のコイルに著しい焼損が認められたが、右側のコイル、コンデンサー、トランジスター等に外観上の損傷は認められず、内部配線に断線、溶融痕等は認められなかった。
○制御基板は著しく焼損し、ほとんどの電気部品は脱落していたが、銅箔パターンの溶融及び基板の欠損は認められなかった。
●当該製品は、内蔵のリチウムイオン電池セルが異常発熱して、出火した可能性が考えられるが、焼損が著しく、事故発生時の詳細な状況が不明のため、製品起因か否かを含め、事故原因の特定には至らなかった。
また、2021年1月25日、横浜第二合同庁舎(横浜市中区)の関東信越厚生局麻薬取締部横浜分室で発生した火災で、分室内で充電していた業務用のモバイルバッテリーは突然爆発し、火災炎上に至り、約30分後に鎮火に至りますが、消防車40台が出動する大騒ぎとなりました。
消防局による調査の結果、いずれのポータブル電源にも何らかの原因で異常発熱した跡があり、内部から発熱したとみられることや、周りの燃え方が激しいことなどから、ポータブル電源の異常発熱が火災原因になった可能性があるとみられています。
参考映像 横浜の合同庁舎で火災 麻薬取締部分室か
https://youtu.be/ItAb1X4lhdw
【参考】
経済産業省 リチウム電池使用製品リコール情報
https://www.meti.go.jp/product_safety/recall/denki_5.html
消費者庁 携帯発電機やポータブル電源の事故に注意!
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_053/assets/caution_053_210825_0001.pdf
ポータブル電源「PS5B」の製品事故について
https://www.meti.go.jp/product_safety/consumer/ps5b_portable_power_supply.html
名古屋市消防局予防部予防課 ポータブル電源の充電中に出火した事例
https://www.isad.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021/02/no143_64p.pdf
非常用、BCP対策としてポータブル電源(リチウムイオンバッテリー)は不適格か?
まず、ポータブル電源の特性について考えてみましょう。
ポータブル電源はその名前が示す通り、ポータブル(portable)持ち運びできる、携帯できる、ことが最大の特徴です。
特に災害時や停電時では、いつでも、どこでも電源確保が出来ることが最大の特徴と言ってもよいでしょう。
持ち運びでき、大容量で高出力、高性能であればあるほど、万が一の場合に役立つと思われがちです。
しかしながら、ここに大きな落とし穴があります。
ポータブル電源(リチウムイオンバッテリー)の場合、18650や26650と表記される円筒形リチウムイオン二次電池を直列、並列に接続したものが採用されていることがほとんどです。
このような電池の最小サイズをセルと呼びますが、この円筒形セルは製品に搭載する際には角型セルやラミネートセルに比べてセル間の拘束力は弱いとされています。
18650や26650と表記されるリチウムイオンバッテリーセルは円筒型の金属ケースの中に正極・負極・セパレータを重ねて巻き上げたロール状の構造体を封入して作られます。
18650の場合は長さ6.5cm、直径1.8cmの円筒形金属ケースです。
リチウムイオンバッテリーの異常発熱の多くは、電池の「短絡(ショート)」が原因
リチウムイオンバッテリーが短絡すると瞬間的に大きな電流が流れるとともに激しい熱も発生しますのでリチウムイオンバッテリー内部の有機溶剤に引火・爆発などにつながる危険性があります。
電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)T01033
リチウムイオン電池の劣化メカニズムの解明 -劣化機構とその診断法-
https://criepi.denken.or.jp/hokokusho/pb/reportDetail?reportNoUkCode=T01033
リチウムイオンバッテリーの異常発熱の要因としては「過充電」「外部短絡」「内部短絡」が知られています。
「過充電」「外部短絡」「内部短絡」により破壊されたリチウムイオンバッテリーはその高容量、高出力ゆえに爆発、火災に至る可能性がより高くなります。
「内部短絡」とは電池の中で起こる短絡(ショート)です。
持ち運びできる、携帯できる、ことが最大の特徴であるポータブル電源(リチウムイオンバッテリー)の場合、常に外部からの衝撃による「内部短絡」のリスクは高いと言え、外部衝撃による電池内部構造の破壊以外にも「セパレータ不良」「コンタミ(製品に混入した不純物)」「金属析出」などが、その要因として考えられています。
円筒形セルの組電池は他の形状に比べて衝撃に弱いことも大きな要因と考えれらます。
また過充電時の金属析出だけでなく過放電も金属析出の原因となり、リチウムイオンバッテリー内部短絡の原因となります。
ポータブル電源はリチウムイオン蓄電池に該当しないため、電気用品安全法の規制対象ではない
インターネット通販や大手量販店のサイトでも、販売しているポータブル電源(リチウムイオンバッテリー)に関して
「電気用品安全法の認証マークである「PSEマーク」が付いている製品は、技術基準に適合した製品として認証されているため、安心して使用できます。」
との表記が見受けられますが、電気用品安全法の規制対象製品であるリチウムイオン蓄電池は、出力が原理上直流に限られており、交流が出力できるポータブル電源はリチウムイオン蓄電池に該当しないため、電気用品安全法の規制対象ではありません。
つまり、ポータブル電源の大部分を占めるリチウムイオンバッテリーに関する安全規格は日本国内には存在しません。
これらの表記によって電気的知識の乏しい消費者が大きな誤解を受けていることは大きな問題です。
リチウムイオンバッテリーの内部短絡による火災の場合、電池が激しく損傷、炭化してしまったために原因の特定までは至らないケースがほとんどであり、問題が起こらないための対策はユーザー側では不可能です。
そしてもう一つの大きな問題は、これら危険なポータブル電源(リチウムイオンバッテリー)を製造しているメーカーのほとんどは海外メーカーであり、日本国内の製造物責任法(PL法)第2条3項によりこれらの製品を輸入した者が製造業者等に該当し、よって輸入者が責任を問われることになりますが、この国内輸入者もあいまいなケースが多く、万が一の損害発生時の責任の所在が不明確であるため、これら輸入販売されているポータブル電源(リチウムイオンバッテリー)はコンプライアンス上も大きな問題があると言えます。
このような背景によりリチウムイオンバッテリーを搭載した大容量のポータブル蓄電池はユーザーが万が一の事態の発生に備えた安全機構の設置や発生後の迅速な対応といった事後対応するほか方法が無い危険物である、と言わざるを得ません。
独立行政法人日本貿易振興機構
輸入品の場合、その品質欠陥に起因する人的・財的損害が発生した際の製造物責任者は誰になりますか。
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-000917.html
BCP対策として業務用ポータブル電源を選ぶ際に重要なポイントとは
BCP対策として業務用ポータブル電源を選ぶ場合に最も重要な要素は「安全性」です。
停電や災害時などの非常時だけでなく、常時使用が可能な製品を選択することも重要です。
常時使用されていることによって非常時にも途切れなく電源を確保することが容易です。
また、業務用ポータブル電源には電気用品安全法、PSEに準拠していることはもちろんのこと、内蔵される蓄電池の種類ごとの安全性能、「SDS(安全データシート)」が明記、公開されている製品でなければ万が一の火災事故や製品の故障、廃棄時に所有者や販売者は損害賠償責任を負うリスクがあります。
SDSとはSafety Data Sheetの頭文字をとったもので、伝達対象となる化学物質を一定割合を超えて含む製品を他の事業者に譲渡または提供する際に交付する、化学物質の危険有害性情報を記載した文書のことです。
特にリチウムイオンバッテリーに関しては日本国内では厳しい制限が課されています。
リチウムイオンバッテリーはどんな材料を使っていても、どんな構造で、どんな電池特性であったとしても、全て「リチウムイオンバッテリー」と呼ばれており、リチウムイオンバッテリー内の有機溶剤やレアメタル、毒性物質に関しても不明な点が多いため、ポータブル電源で使用されているリチウムイオンバッテリーに関しては家庭から廃棄される一般廃棄物の対象外であり、事業場・工場から廃棄される場合(産業廃棄物)でも、処分できる業者、場所が決まっていないため、メーカーでの引取り条件がない限りにおいては日本国内では事実上、廃棄、処分が出来ないことにも注意が必要です。
現在、各自治体においても「リチウムイオン電池等処理困難物」として大きな問題となりつつあります。
→パーソナルエナジーポータブルパワーは航空機、船舶、鉄道すべての搭載が可能な安全認証を取得しています。
参考 令和2年度リチウムイオン電池等処理困難物 適正処理対策検討業務結果
https://www.env.go.jp/recycle/210407libhoukoku.pdf
次に重要な要素は「高可用性」です。
ユーザーから見てシステムが停止せずに使えることを高可用性と言いますが、これを実現するためには、信頼性の高いハードウエアを使い、耐障害性を高めたソフトウエアによる制御をされたポータブル電源であることが重要です。
万が一の場合も平常時と変わらぬ電力供給が可能な「UPS機能」が搭載されたもの、そして正弦波を出力するポータブル電源を選ぶことも大切です。
→パーソナルエナジーポータブルパワーは正弦波「無瞬停」で電源切り替え可能。コンセントと同じ感覚で使えるオフグリッド電源です。
※オフグリッドは慧通信技術工業の登録商標です
そして、3つ目に重要な要素は「ライフサイクル」です。
どのような種類のバッテリーであっても非常用であるからと言って、非常時以外には使わないような使用方法は不可能です。
充電・放電を繰り返すことで進行するのが通電劣化といい、使用しない状態でも時間経過とともに進行するのが経時劣化と言います。
バッテリーの寿命低下は電池内部で起こる化学反応によるもので、一般的に化学反応は温度が高いほど、その反応速度が上がるため、使用環境の温度が高いほど、バッテリーの劣化が早く進行します。
メーカーが推奨する一定の環境下で常時使用した場合にどの程度の期間、連続運用できるのか?という要素が重要です。
国税庁によれば、蓄電池の法定耐用年数は6年となっていますが、できるだけ法定耐用年数に近い製品保証のあるポータブル電源ほど信頼性が高いと言えます。
→パーソナルエナジーポータブルパワーは5年間の製品保証、期間中は回数無制限で交換修理が可能です。
安全性・高可用性・ライフサイクルを備えた業務用ポータブル電源 PortablePower HPP-2000 製品サイト
「安全性」
「高可用性」
「ライフサイクル」
この3つの重要な要素を満たし、かつ予算に合わせたポータブル電源を選択することがBCP対策には不可欠です。
パーソナルエナジーポータブルパワーがリチウムイオンバッテリーを採用していない理由
パーソナルエナジーポータブルパワー、無瞬停可搬型オフグリッド電源 HPP-2000、バッテリーバンクHBB-1000に内蔵されるバッテリーにはAGM(アブソード・グラスマット)バッテリーを採用しています。
以下はバッテリーの安全に関する主な認証、認定です。
1、ISO9001, 14001, 45001認証取得。
2、UL1989(ファイル番号MH14533)UL認定部品。
3、IATA/ICAO 航空輸送に関する特別規定A67に適合。
(危険な熱を発生させるおそれのある電池のうち、当該電池の電解液が55℃においてケースの亀裂等により漏えいしないものであり、かつ、当該電解液が遊離した又は吸収されない液体を含まないものであつて、短絡若しくは不測の作動を防止する措置がとられているもの又は当該電池を動力とする装置、機器及び車両は輸送禁止物件に含まれないものとする。)
4、欧州航空安全機関 MG改正27により、水上輸送の非危険物として分類。
5、陸上輸送において、アメリカ交通省(Department of Transportation)により「ドライチャージ」49 CFR 171-189として認定。
これには理由があり、ポータブル電源はその名前が示す通り、ポータブル(portable)持ち運びできる、携帯できる、ことが最大の特徴ですから、特に災害時や停電時では、いつでも、どこでも、「安全」に電源確保できることを目的としています。
AGMは非常に低い電気抵抗となっており、効率よく電力を供給し、他のタイプのバッテリーと比較しても驚異的なライフサイクルで、元々は航空用途に開発された、軍用のバッテリーとしても多く採用されている方式です。
バッテリー単体の期待寿命は10~12年で設計されています。
AGM は既存のバッテリーに対して、安全性、効率、そして耐久性を向上する目的で設計されています。
そしてAGMバッテリーは完全なリサイクルが可能です。
特に災害時においては、負荷の電気機器を選ばず、高出力を安定して出力することが求められます。
リチウムイオンバッテリーの最大の特徴である、急速充電やサイクル充電は再度バッテリーが充電できる環境があって初めて役立つものですしかしながら災害時にはそのような充電環境は容易に準備できないため、急速充電やサイクル充電の優先順位は低いと思われます。
また、移動、運搬を前提とした、ポータブル電源では、円筒型リチウムイオンバッテリーは移動、振動の影響を大きく受けるため不向きです。
AGMバッテリーはもともとが航空機やミリタリー使用を前提としたバッテリーですので、移動や振動に適したバッテリーと言え、出力に関してもリチウムイオンバッテリーと比較して差は無いため、これを採用しています。
また、使用中に充電残量が少なくなった場合を想定して、バッテリーバンクHBB-1000は電源を投入したままバッテリー交換(活線挿抜/活線交換/ホットスワップ)が可能であり、最大49台の接続をサポートしています。
もちろん、この電源交換の間も無瞬停で高出力は維持されますので可搬型、大容量UPSとして使用することが可能です。
「安全性」
「高可用性」
「ライフサイクル」
この3つの重要な要素を満たしたポータブル電源を選択することがBCP対策には不可欠です。
特にリチウムイオン蓄電池を使用しているポータブル電源は、事故が起きたときの発熱量も大きくなるため、より注意が必要です。
ポータブル電源の本体は電気用品安全法の規制対象外ですので、ポータブル電源を使用する際は、以下の点を参考により安全性の高い製品を選ぶとともに、保管や使用状況にも注意が必要です。
1.製造・販売元がはっきりしている製品を選び、また回収・リサイクルに対応しているか確認する。
2.使用中の感電に注意
3.リコール対象製品となっていないか確認しましょう。
ポータブル電源に関する事故のうち約5割がリコール製品によるものです。
メーカー、型番などで過去に事故やリコールがないか確認するようにしましょう。
・消費者庁リコール情報サイト https://www.recall.caa.go.jp/
・独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE) SAFE-Lite https://safe-lite.nite.go.jp/