2025年以降、東京都では新築住宅等への太陽光発電設備の設置、ならびに断熱・省エネ性能の確保を義務付ける制度が本格施行されています。
この制度は、日本の都市部における脱炭素政策として、もっとも踏み込んだ事例の一つといえます。
本稿では、この制度が何を現実的に解決し、何を解決できないのかを、海外の定量分析とも照合しながら整理します。
1. 制度の目的は明確であり、合理的です
東京都の制度が掲げる目的は、極めて明確です。
- 都市部における再生可能エネルギー導入量の底上げ
- 建築段階でのエネルギー効率の確保
- 家庭部門におけるCO₂排出削減
これらは、建築後の改修に比べてコスト効率が高く、制度設計として合理的です。
また、都市部という制約条件の中で、屋根置き太陽光は「取り得る数少ない再生可能エネルギー手段」であることも事実です。
2. NZAu分析と一致する「量的限界」
一方で、この制度が直面する限界も明確です。
オーストラリアの独立研究プロジェクトである Net Zero Australia(NZAu)の定量分析では、 屋根置き太陽光や分散型電源は、導入が進んだとしてもボリューム効果には限界があると評価されています。
東京都の制度も、同じ構造を持っています。
- 屋根面積には物理的な上限があります
- 都市部では日照条件が均質ではありません
- 電力需要のピークや産業需要を賄うことはできません
つまり、この制度は「足し算としては正しいものの、主役にはなり得ない」と位置づけられます。
Figure 1. Projected Domestic Primary Energy Consumption (NZAu)
Figure 2. Final Energy Consumption by Sector (NZAu)
3. 避けられない「期待値への失望」
この制度が象徴しているのは、日本においても進行しつつある分散型再生可能エネルギーへの過剰な期待です。
- 義務化すれば脱炭素が進むという期待
- 個人の取り組みで社会全体が変わるという期待
- 電力問題は住宅で解決できるという期待
しかし現実には、設備更新期の集中、蓄電池の劣化や交換コスト、補助金前提モデルの持続性など、避けられない課題があります。
これは制度の失敗ではありません。制度に背負わせた期待が過剰だったと考えるのが妥当です。
Figure 3. Share of Electricity Demand Met by Technology (NZAu)
4. 東京都制度が本当に果たすべき役割
東京都の太陽光義務化は、日本をネットゼロに導く決定打ではありません。
本制度の本質的な役割は、電力網への依存度を部分的に下げ、災害時や停電時の最低限のレジリエンスを確保し、 都市部における需要ピークを緩和する点にあります。
すなわち、中央集権型エネルギーシステムを補完する役割です。
Figure 4. Renewable Capacity vs. Firming and Storage Requirements (NZAu)
5. なぜ「グリッドに影響しない政策」が選ばれたのか
東京都の制度は、電力系統の構造に直接手を触れない設計になっています。
送電網や基幹電源への直接的な介入は、利害調整が複雑で工期も長く、失敗時の政治的責任も大きくなります。
その点、住宅単位の規制は影響が局所的で、リスクを分散しやすく、実行した事実を示しやすいという特徴があります。
Figure 5. Renewable Capacity Growth vs. Required Annual Build Rate (NZAu)
結論
東京都の制度と、オーストラリアの再生可能エネルギー移行に関する分析は、地理や制度が異なるにもかかわらず、共通する結論に収束しています。
- 分散型エネルギーは必要です
- しかし万能ではありません
- 大規模インフラの遅延を前提とした補完策として位置づける必要があります
オフグリッドは、外部要因とは切り離された環境で運用されるため、 大規模インフラが予定通りに整備されない可能性や、災害・事故による計画変更を織り込んだうえで、 リスクを分散するための現実的な手段として有効です。