1. 前編の整理──「10年遅れる」という前提に立つ
NZAu のシナリオが示しているのは、「再エネはダメだ」という否定ではありません。
むしろ、
・前提条件が厳しいほど、必要な投資規模は膨張する
・インフラ整備の遅延は、数年ではなく「最大10年」のオーダーになる
という、時間軸の現実です。
そして NZAu は、その前提に立ったうえで、政策論として次の 2 つを特に重視しています。
- 建物・分散型エネルギー(rooftop PV、蓄電、需要側制御など)
- 工場・産業部門のエネルギー効率向上
中央の大規模再エネ・送電網だけに期待するのではなく、
「遅れること」を前提に、それでも守れる領域を増やすという発想への転換です。
ここからが、オフグリッド/分散型エネルギーの本領発揮となります。
2. 建物・分散型エネルギーは「全体の何%か」では測れない
補足①で整理した通り、家庭や中小ビル、店舗などの需要は、国全体の電力需要のうち、決して多数派ではありません。
「だから影響は限定的だ」「メインは大規模再エネだ」という議論は、一見もっともらしく聞こえます。
しかし NZAu が強調しているのは、シェアの大小ではなく「制御可能性」と「ローカルな影響度」です。 建物・分散型エネルギーには、次のような特徴があります。
- 需要ピークを建物単位で緩和できる(空調・給湯・蓄電の制御)
- 停電時に数時間〜数日単位の自律運転が可能になる(住宅用オフグリッド、非常用自立運転)
- 価格シグナルに対して、人と機械の両方が柔軟に応答できる(需要応答、時間帯別制御)
つまり、建物・分散型エネルギーは「国全体の何%を賄うか」ではなく、
・系統が不安定になったときに、どこまで自分たちで持ちこたえられるか
・ピーク時の負荷をどこまで自分たちで引き下げられるか
という、「耐える力」「しなやかさ」を高める装置として評価すべきなのです。
中央システムの遅延や不安定化を前提にすると、
建物側でのローカルな電源と制御は「おまけ」ではなく、エネルギーセキュリティの中核に近づいていきます。
3. 工場のエネルギー効率──「省エネ設備」より先に見るべきもの
補足②では、工場・産業部門のエネルギー効率が「豪州の再エネ移行で最も重要なレバーのひとつ」であることを整理しました。
ここで言うエネルギー効率は、単なる高効率モーターやインバータの導入ではありません。
NZAu が想定しているのは、次のようなレイヤーです。
- 工程設計そのものの見直し(熱源の階層化、低温プロセスへの転換など)
- 負荷パターンの平準化(夜間運転の活用、柔軟なシフト設計)
- ローカルな電源との組み合わせ(工場屋根の PV、工場敷地内オフグリッド、熱源とのハイブリッド化)
つまり、工場のエネルギー効率とは、「中央の安価な電気を前提にしたライン設計」からの脱却です。
瞬時停電や電圧低下に弱いライン構成から、局所的なオフグリッドを前提にした構成へと移行することで、
・停電時の被害範囲を限定し
・動かせる工程だけを動かすという柔軟性が生まれます。
これこそが、当社がこれまで提案してきた
「止まらない工場」「部分的オフグリッド」「ライン単位の電源BCP」
と、まさに同じ方向性にあると言えます。
4. 「やった感」と構造変化のギャップをどう埋めるか
補足結論で触れたように、グリッドに与える影響が小さく、「やった感」が大きい政策は、政治的には採用しやすい一方で、 エネルギーシステムとしての構造はほとんど変化しないという問題があります。
典型的なのは、中央システムの前提は一切変えないまま、「ラベル」や「見かけ」だけを変える施策です。
これは、短期的には批判回避として機能しますが、NZAu が示すような 10 年単位の遅延リスクにはほとんど効きません。
ここで重要なのは、「やった感」自体を否定することではなく、それを構造変化につなげる設計です。
建物・分散型エネルギーや工場のエネルギー効率は、その意味で、
・政治的にも採用しやすく
・技術的にも構造変化をもたらしうる
数少ない領域と言えます。
5. オフグリッド/分散型エネルギーは「理想」ではなく「現実対応策」である
補足結論の最後でまとめた通り、NZAu の定量分析が突きつけているのは、再エネ移行の失敗ではありません。
それは、「中央システムが予定通りには進まない」という、きわめて現実的な前提です。
その前提に立てば、オフグリッド/分散型エネルギーとは、
・中央システムが遅れたときの安全弁
・想定外の外乱が起きたときに「残る」側に回るための構造
として意味を持ちます。
当社が提唱しているオフグリッドは、思想や理念から出発したものではなく、
観測 → 検証 → 実装 → 運用 → 再設計 という工学的プロセスの結果として収束した設計解です。
そして、NZAu のような大規模シナリオ分析は、その妥当性を「外側」から補強していると言えます。
中央システムの不確実性が高まるほど、
・建物・地域単位でのオフグリッド化
・工場ライン単位での部分的オフグリッド
・可搬型UPSを用いたスポット的な電源BCP
といった具体的な実装は、「理想論」ではなく生存戦略に近づいていきます。