1. 本記事における「分断」の定義

ここでいう「分断」は、通信断やネットワーク障害のような一時的な切断だけを指すわけではありません。
次のような要因によって、情報・指示・資源・判断が「完全な形では届かなくなる状態」を広く含みます。

  • 通信断や遅延といった技術的分断
  • 災害や距離による地理的分断
  • 本部と現場、企業間の組織的分断
  • 国境・規制・制度・標準の違いによる政治・制度的分断

重要なのは、こうした分断が「一時的な例外」ではなく、今後の世界の運用条件そのものになりつつあるという点です。 それにもかかわらず、多くの仕組みは依然として、 「常時接続」「即時共有」「中央集権的な判断」を前提に設計されています。

2. なぜ従来の設計では分断に耐えられないのか

従来の多くの業務システムやインフラは、 次のような前提で設計されてきました。

  • ネットワークは常時接続されている
  • 情報はほぼリアルタイムに共有される
  • 中央の判断拠点から一元的に制御できる

しかし分断された環境では、 情報の遅延や欠落、判断拠点の一時的な不在が頻発します。 このとき、「すべてが揃わなければ動かない」設計は、最初に機能不全に陥ることになります。

だからこそ、分断を前提にした世界では、 「揃っていること」を前提にするのではなく、「揃わなくても続く」構造を選び取る必要があるのです。

3. 自律(Autonomy)──中央が不在でも動き続ける

3-1. 定義

自律とは、現場・拠点・装置・担当者・システムが、上位や中央からの即時の指示や確認がなくても、 一定の判断と行動を継続できる状態を指します。

3-2. 自律が意味するもの

  • 中央が不在でも、重要な業務が止まらずに継続できること
  • 現地の状況に応じた判断が、現地で完結できること
  • 「後から説明・検証できるなら、いまは進めてよい」という割り切りを制度として持つこと

自律は「勝手に動くこと」ではありません。 むしろ、分断された状況でも責任ある判断を現場に委ねるための設計です。 現場の判断を「例外」とするのではなく、「前提」として組み込むことが、自律の第一歩になります。

4. 分散(Distribution)──一箇所の停止で全体を止めない

4-1. 定義

分散とは、機能・判断・データ・資源・リスクを一箇所に集中させない設計を指します。 これは単なる「バックアップの多重化」ではなく、構造としての分散です。

4-2. 分散設計がもたらすもの

  • 一部が失われても、全体が完全停止せずに済む
  • 拠点や組織ごとに独立した継続性を持てる
  • 復旧を「全体同時」ではなく、段階的・局所的に行える

分散は効率を下げるためのものではありません。 むしろ、分断による影響範囲を局所化し、全体の継続性を高めるための構造です。 「すべてを一箇所で最適化する」のではなく、「複数箇所のローカルな最適化の積み上げ」で全体を支える発想が必要になります。

5. 非同期(Asynchrony)──時間差を前提にする

5-1. 定義

非同期とは、情報の共有・判断・実行が必ずしも同時に行われることを前提にしない考え方です。 「同時であること」を理想としつつも、「必須条件」とはしない設計です。

5-2. 非同期が意味する現実的な時間感覚

  • 遅れやズレが発生することを織り込んだプロセス設計
  • 仮の判断で進め、後から整合を取るフローの許容
  • 報告や同期は後追いで構わないとする運用ルール

非同期は「緩さ」ではなく、分断された世界における現実的な時間感覚です。 すべてをリアルタイムで揃えようとするのではなく、「時間差があっても破綻しない」ようにフローを設計することが、これからの前提になります。

6. 分断を前提に設計するということ

分断を前提に設計するとは、 情報・指示・資源・判断が、常に完全な形で、同じ意味で、同時に共有されるとは限らないという現実を受け入れたうえで、 それでも業務や機能が継続するように仕組みを設計することです。

そのために必要になるのが、次の三つの設計原理です。

  • 判断を現場に委ねる自律
  • 集中を避ける分散
  • 時間差とズレを許容する非同期

これらは、いずれも「分断を克服するための魔法の技術」ではありません。 むしろ、分断と共存するために、あらかじめ選び取るべき設計原理だと言えます。

7. System of Systems に見る自律・分散・非同期

自律・分散・非同期は、近年になって突然生まれたソフトウェア設計の流行ではありません。 これらはすでに確立された設計概念であるSystem of Systems(SoS:システム・オブ・システムズ)と強く結びついています。

SoSとは、複数の独立したシステムが相互に連携することで、 単独では実現できない、より大きな目的や機能を実現する複合的なシステム構造を指します。 個々のシステムはそれぞれ独立して運用・管理され、固有の目的や能力を持ちながら、 接続・統合によって全体としての価値を生み出します。

重要なのは、SoSにおいて、各システムが常に完全に同期し、中央から一元的に制御されることは前提とされていない点です。 むしろ、

  • 各システムが自律的に振る舞い
  • 全体が分散して構成され
  • 情報や判断が非同期にやり取りされる

ことによって、全体としての柔軟性と継続性が確保されます。 社会インフラ、交通網、エネルギー供給、物流網、スマートシティなど、 私たちが依存する多くの仕組みは、すでにSoSの前提で設計されるべき領域に入っています。

8. 分断を内包した世界構造と、これからの設計

インターネットが社会に普及した1990年代から2000年代初頭にかけて、 世界は歴史的に見ても例を見ないほど安定しており、 国境や制度の違いが強く意識されにくい環境にありました。 この時代には、「皆が同じ情報を、同じタイミングで知っていること」そのものが価値を持ち、 情報の共有と集中が合理的な前提として機能していました。

しかし現在は、地政学的な緊張、制度や規制の違い、供給網の再編、価値観の分岐により、 世界は静かに、しかし確実に分断を内包した構造へと移行しています。 この変化は急激な断絶ではなく、緩やかで長期的な二極化として進行しているため、 従来の前提が失われつつあることに気づきにくいという特徴があります。

このような環境において、すべてを一つに揃え、完全な同期と集中制御を目指す設計は、かえって脆弱になります。 だからこそ、これから求められるのは、 分断を否定することでも、完全な統合を取り戻そうとすることでもなく、 分断が前提となる世界においても、社会や産業の活動が静かに、しかし確実に継続する構造を意識的に選び取ることです。

9. まとめ──「揃わなくても続く構造」を選ぶ

自律・分散・非同期とは、分断を克服するための技術ではなく、 分断と共存するための設計原理だと言えます。

  • すべてを中央に集めて管理するのではなく、判断を委ねる自律を設計すること
  • 単一点障害を作らず、影響を局所化する分散を前提にすること
  • 完全な同期を前提にせず、時間差とズレを織り込む非同期を標準にすること

すべてを一つに揃えようとするのではなく、揃わなくても続く構造を選ぶ
それが、分断を前提に設計するということです。
そしてこれは、エネルギーシステムに限らず、SCM、情報システム、組織設計に至るまで、 これからのあらゆる設計の共通原理になっていくと考えています。