オフグリッドとは、災害時だけの非常用設備ではありません。
平時も非常時も「電力があるか」を意識せずに業務が続く状態を、運用として成立させるシステムです。
現場では、こう聞かれます
「オフグリッドとは何ですか?」
「停電していても、本当に気づかないのですか?」
長期間運用している現場から返ってくる答えは、意外なほど淡々としています。
「止まったことを、意識したことがありません」
この反応が示しているのは、設備の能力の高さというよりも、設計と運用の前提が変わったという事実です。
「便利」が前提になった社会は、見えない条件の上にある
1990年以降、私たちの生活は「便利」が前提になりました。
スマートフォン、キャッシュレス、クラウド、ネットバンキング。
これらはすべて、「使えるかどうかを疑わない」ことを前提に設計されています。
しかし、その便利さは単体では成立しません。背後には必ず次のような前提条件があります。
- 電力が止まらない
- 通信が途切れない
- データセンターが常時稼働している
つまり、「平和で自由で、かつ強靭なインフラ」が常に存在することが暗黙の前提になっています。
その前提が、すでに揺らぎ始めている
2025年以降、通信・認証・クラウド・ネットバンキングなどで 「一時的に使えない」事例が、週単位で観測されるようになりました。
多くは「障害」として処理されます。 しかし利用者にとっては、“便利”が突然使えなくなるという点で同じです。
そして、この前提の脆さは、日常だけの話ではありません。
年始早々、南米で行われた大規模な軍事作戦では、 作戦開始の前提として都市部全体を停電させる―― いわゆるブラックアウトが実行されました。
現代の戦争は、まず電力と通信を断つことから始まる。 そう言っても過言ではない、象徴的な年明けでした。
平時には「障害」として片づけられる現象が、 有事には最初から意図的に引き起こされる。
つまり私たちは、同じ前提の上に 日常と非常の両方を置いていることになります。
オフグリッドとは何か(本稿での整理)
本稿で扱うオフグリッドは、次のように整理します。
平時も非常時も、電力の供給状態を意識する必要がない構成
- 停電を検知して対応する前提を置かない
- 切り替え操作を必要としない
- 特別な判断を人に求めない
結果として、止まっていないので、止まらなかったことにも気づかないという運用状態が生まれます。
本シリーズについて
本シリーズでは、この考え方を前提として運用されている導入事例を紹介します。
いずれも新設・更新時にオフグリッドが採用され、導入から5年から10年以上が経過し、日常運用として定着している事例です。
次回は、防災を生業とする企業が、なぜ社屋全体をオフグリッドで設計したのか。
タイホ防災株式会社の事例から入ります。