1. 「では、どうすればよいのか」――企業が「制御できる領域」を引き取るという選択
経産省レポート2024年版・2025年版を通して一貫しているメッセージを、あえてストレートに書き換えると次のようになります。
- 国家は、もはやすべての前提条件を保証できない
- 補助金や支援策は用意されているが、長期リスクまでは引き受けない
- 企業には、より高い自律性と、構造を自ら設計する力が求められている
そして、企業側もそれを正確に読み取っています。だからこそ、
「笛吹けど踊らず」という状況が続いています。
補助金メニューは増えているのに、現場の意思決定者は距離を取り始めている。
これは単なる慎重さではなく、「国家が保証しないリスク」を企業が肌感覚で理解し始めた結果です。
では、どうすればよいのか。
本稿の立場は明快です。
企業が「制御できる領域」を自ら引き取り、そこに資本と時間を集中させること。
逆に言えば、誰にも制御できない外部条件に未来を賭けない構造へと、静かに移行していくことです。
2. 不確実性から、距離を取る企業たち
不確実性から距離を取る、というと「守り」に聞こえるかもしれません。 しかし実態としては、むしろ攻めの選択です。 具体的には、次のような行動として現れています。
- 原材料・エネルギー・物流といったボラティリティの高いコスト要因に、むやみに依存しない事業設計に切り替える
- 補助金前提の投資ではなく、自社の単独収益性が成り立つ範囲で設備更新を進める
- 「グローバル最適」を前提にしたサプライチェーンから、自社が主体的に制御できる一次データと現場能力へと軸足を移す
- 国境・制度・為替といった外部要因ではなく、自社が握れるインフラ(電源・通信・人材・顧客接点)の質を高める
これらは一見バラバラのようでいて、共通しているのは 「制御できないものを減らし、制御できるものを増やす」という方向性です。 経産省レポートは、そこに至るまでの背景を国家側の視点から整理した文書だと言えます。
企業は今、国家や市場に対する「期待値」を引き下げつつ、
自社の設計次第で変えられる領域に、どう資源を再配分するかを問われています。
3. 企業が「引き取るべき」制御領域とは何か
では、具体的に何を自社の制御下に置くべきでしょうか。 経産省レポートの行間を、企業側の視点から読み替えると、次のような領域が浮かび上がります。
1)一次データと業務プロセス
生産性シリーズ(全4回)でも繰り返し触れてきた通り、 一次データを自前で持ち、業務プロセスを自社の言葉で記述できるかどうかが、 これからの収益性とレジリエンスを分けます。 補助金やベンダー主導のDXではなく、 「自分たちの業務を、自分たちで測り、改善できる状態」を作ることが第一歩です。
2)止まらない生産・物流インフラ
電力・通信・拠点ネットワークが止まれば、どれほど高度なDXや自動化も一瞬で無力化されます。 逆に言えば、「止まらないインフラ」を自社で設計・運用できるかどうかは、 他社との差別化要因になり得ます。 ここで重要なのは、大規模投資ではなく、 事業継続に直結するミニマム構成から始めることです。
3)人と組織の「判断の質」
経産省レポート2025年版が強調する 「コーポレート機能の再設計」「経営企画・財務の役割の見直し」は、 企業の内側で意思決定の質を高めるための問題提起でもあります。 「外部環境が悪い」「政策が見えない」という言葉で片付けるのではなく、 不確実性を前提にしたうえで、どのように意思決定のプロセスを設計し直すかが問われています。
4. その境界を支える「技術」としてのインフラ設計
ここまで整理してきた結論を、あらためてシンプルな問いに落とし込みます。
- では、具体的に何を制御下に置くのか
- どこまでを引き取り、どこを外部と接続するのか
- そして、それを可能にする技術とインフラ構造とは何か
これらはすべて、抽象的な「経営論」ではなく、 電源・通信・データ・サプライチェーンといったインフラ設計の問題です。 どの領域を自社で持ち、どの領域を市場や公共インフラに委ねるのか―― その境界線を引き直す作業こそが、コーポレート・リデザインと言えます。
次のステップとして私たちが提示したいのが、 オフグリッド/マイクログリッドというインフラ設計を、「思想」ではなく「現実的な技術」として捉え直すことです。 それは単なる「非常用対策」ではありません。 前提条件が変わった世界で、事業を止めないための基盤そのものです。
5. まとめ――不確実性から距離を取り、「制御」を取り戻す
本稿で整理したポイントを簡単に振り返ります。
- 経産省レポート2024・2025年版は、国家がすべての前提条件を保証できない時代に入ったことを、霞ヶ関の言葉で示している
- 企業側はそれを読み取り、補助金や制度への過度な依存から距離を取る動きを強めている
- 重要なのは、外部環境のせいにすることではなく、自社が制御できる領域をどこまで引き取るのかを明確にすること
- 一次データ・止まらないインフラ・意思決定プロセスの再設計は、そのための具体的な出発点になる
不確実性を「なくす」ことはできません。 しかし、どの不確実性から距離を取り、どの領域を自らの制御下に置くかは選べます。 経産省レポートを読み解くことは、国家側の制約条件を理解する作業であると同時に、 企業が自らの設計思想をアップデートするための鏡でもあります。
次のシリーズでは、こうした前提の上に、 オフグリッドというエネルギーインフラの設計解を紹介していきます。 それは「対策」ではなく、変化した世界で事業を続けるための前提条件です。